2012年9月16日日曜日

ボブ・ディラン・ベスト・ソングズ100

「レコード・コレクターズ」誌の2012年10月号がいよいよ発売された。特集は「ボブ・ディラン・ベスト・ソングズ100」。
前号の「次号予告」でこの特集のことを知った私は、ベスト100のうち上位10曲を事前に予想してみた。そして今号の発売を、今か今かと待ち構えていたのだ。
この前のストーンズのベスト・ソングズ100のときも同じように事前予想をした。本来はこういう曲単位のランキングにはあまり興味がわかないのだが、事前予想をしたら自分も特集に参加しているような気分になって、おおいに楽しませてもらった。
今回のディランのベスト10予想については、その選定の根拠を「大予想 ボブ・ディラン・ベスト・ソングズ10」と題して、このブログに書いておいた。興味のある方はご参照を。

さてレコ・コレ誌上に発表されたベスト・ソングズ100のうち上位10曲は次のとおりだ。

<ボブ・ディラン・ベスト・ソングズ10(レコ・コレ誌)>

第1位 「ライク・ア・ローリング・ストーン(Like a Rolling Stone)」
第2位 「女の如くJust Like a Woman)」
第3位 「サブタレニアン・ホームシック・ブルース(Subterranean Homesick Blues)」
第4位 「くよくよするなよ(Don't Think Twice, It's All Right)」
第5位 「アイ・ウォント・ユー(I Want You)」
第6位 「ブルーにこんがらがってTangled Up in Blue)」
第7位 「メンフィス・ブルース・アゲイン(Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again)」
第8位 「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」
第9位 「見張塔からずっとAll Along the Watchtower)」
第10位 「アイ・シャル・ビー・リリーストI Shall Be Released)」
次 点 「ミスター・タンブリン・マンMr. Tambourine Man)」


 ちなみに私の事前予想もあらためて紹介しておこう。

<ボブ・ディラン・ベスト・ソングズ10(私の事前予想)>

第1位 「ライク・ア・ローリング・ストーン(Like a Rolling Stone)」
第2位 「風に吹かれて(Blowin' in the Wind)」
第3位 「はげしい雨が降るA Hard Rain's a-Gonna Fall
第4位 「時代は変るThe Times They Are a-Changin')」
第5位 「サブタレニアン・ホームシック・ブルース(Subterranean Homesick Blues)」
第6位 「ミスター・タンブリン・マンMr. Tambourine Man)」
第7位 「メンフィス・ブルース・アゲイン(Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again)」
第8位 「アイ・シャル・ビー・リリーストI Shall Be Released)」
第9位 「マスターピース(When I Paint My Masterpiece)」
第10位 「天国への扉Knockin' on Heaven's Door)」
次 点 「見張塔からずっとAll Along the Watchtower)」


はたして私の予想は当たっていたか。検討してみよう。一応次点まで予想したので、上位11曲までの比較とする(ほんとはこの方が私には都合がいいので)。
まず順位が的中したのは、第1位と第7位の2曲。2曲だけだけれど、うれしい。何しろ、ストーンズのときは順位までは一曲も当てられなかったので。
第1位が「ライク・ア・ローリング・ストーン」なのは、わりと易しかったかもしれない。
第7位の「メンフィス・ブルース・アゲイン」は、ぴったり順位が当たったのは偶然だけど、5位から7位くらいに入るだろうという読みはあった。

つづいて、予想のとおりベスト10(+次点)に入ったが、順位は違っていた曲。これが5曲あった。
発表順位第3位の「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」(予想は5位)。
同第8位の「風に吹かれて」(予想は2位)。
同第9位の「見張塔からずっと」(予想は第11位)。
同第10位の「アイ・シャル・ビー・リリースト」(予想は8位)。
同第11位の「ミスター・タンブリン・マン」(予想は第6位)。
このうち「サブタレニアン…」と「見張塔からずっと」と「アイ・シャル・ビー…」は、誤差2位だからちょっと惜しかった。

というわけで、11曲中7曲はまあ予想どおりだったと言ってもよいだろう。
予想していなかったのは、残りの4曲。

発表順位第4位の「くよくよするなよ」と第6位の「ブルーにこんがらがって」は、予想時の記事を見てもらえばわかるが、「もしかしたら10位以内に入選するかも」という気持もないではなかった。だからこの2曲の結果は十分に納得できるものだ。
しかし、残りの2曲については、まったく予想外だった。第2位の「女の如く」と、第5位の「アイ・ウォント・ユー」だ。何だか今でもまだ信じられない気持だ。
この2曲については、後ほど少し検討してみることにする。

その前に、私が10位以内と予想したのに、入らなかった4曲の行き先を確認しておきたい。
まず第3位に予想していた「はげしい雨が降る」と第4位に予想していた「時代は変る」が、発表順位第15位と14位で並んでいる。ベスト10曲の中でも上位に来ると読んでいた初期名曲・代表曲が10位台とはかなり意外。うーん時代は変わったのか。
次は「マスターピース」。発表順位第10位に食い込んだ「アイ・シャル・ビー・リリースト」と並ぶ名曲と思い、第9位と予想したのだったが、これは大胆過ぎたようだ。結果は何と57位。これは完敗だった。無念。
そして第10位と予想した「天国への扉」。これも振るわず25位。こんなもんなのかなあ。でも北中正和氏が自分のランキングでこの曲を1位に選んでいて少し慰められた。

さて「問題」の2曲、「女の如く」と「アイ・ウォント・ユー」についてだ。
詞の内容はともかくとして、曲調はどちらもわりとシンプルでわかりやすくてポップ。ディランの歌い方もどちらかと言えばジェントル。ということは、私から見るとあんまりディランらしくない曲ということになる。
こんな曲が「ブルーにこんがらがって」(第6位)とか「メンフィス・ブルース・アゲイン」(第7位)とか「風に吹かれて」(第8位)とか「見張塔からずっと」(第9位)といった名曲の数々よりも上位にあるのは何とも不可解。
思い入れなしでただポップな曲をポップに楽しむ時代になったということなのか。

こんな曲をいったい誰が選んだのだろう。このランキングの選者はレコ・コレ誌のライター25人。この25人が一人ずつベスト30を選んでそれを集計したのが今回のベスト100だという。選者の方々の個々のベスト30もそのまま掲載されている。
このベスト30をざっと見てみた。
「女の如く」をベスト30の中に選んだのは25人の選者中20人。それぞれのランキングの中での順位は次のとおり。3位が1人、4位が2人、6位1人、7位2人、8位1人、9位1人、10位2人、13位1人、14位1人、15位2人、24位4人、25位1人、27位1人。
つまり最高でも3位までで、この曲を1位とか2位に選んだ人は一人もいないわけだ。しかも半数以上の人は、10位以下にしている。それなのに集計したら第2位になっちゃったというわけだ。
個々のリストの順位をポイントに置き換えて集計しているのだろう。しかしこの方式だと、この曲の場合のように選者の実感と微妙に違う結果になってしまうことがある。それでいいのか。
特集でこの曲のコメントを担当している五十嵐正氏も、「2位とは僕の予想以上」と冒頭で述べている。中川五郎氏との「特別対談」でも選者の一人湯浅学氏は、この曲の2位を「少し意外かな」と述べている。この曲を選んだ他の選者たちも、同じようなことを感じているのでは。

「アイ・ウォント・ユー」についても同様に調べてみた。
この曲をベスト30位までに選んだ選者は25人中15人。それぞれのランキング中の順位は、1位1人、3位2人、5位4人で、以下8位、11位、14位、15位、17位、16位、19位、28位が各1人だった。
こちらは選んだ人のうち約半数の7人が、5位以上に選んでいる。そうなのか。まあこれなら仕方がないか。
しかししつこいようだが、これがそんなに良い曲なのだろうか。『ブロンド・オン・ブロンド』には、もっともっと良い曲、意味が深そうな曲、重要そうな曲、象徴的な曲があると思うのだが…。

さて、今回のベスト・ソングズ100を見て全体的な印象をいくつか述べよう。
まず大きな特徴は、やはり60年代の曲が多いということだ。上位10曲の内、8曲は60年代の曲。
70年代の曲は、第6位の「ブルーにこんがらがって」(1975)と第10位の「アイ・シャル・ビー・リリースト」(1971)の2曲のみ。しかも後者の「アイ・シャル・ビー…」は、67年の『地下室』セッションのときに作った曲で、自演したのが71年というだけだから、実質は60年代の曲。つまり純粋に70年代以降の曲は、「ブルーに…」の1曲のみということになる。

ところで予想したときに1978年の『ストリート・リーガル』以降の曲はベスト10曲には絶対に入らないと書いたが、これはもちろんそのとおりだった。このアルバム以降の曲でランキングのいちばん上位に入ったのが、『インフィデル』(1983)のアウトテイク「ブラインド・ウィリー・マクテル」の17位。
次が『スロー・トレイン・カミング』(1979)からの「ガッタ・サーヴ・サムバディ」の29位。さらにその次が『ショット・オブ・ラヴ』(1981)からの「エヴリ・グレイン・オン・サンド」の36位といった具合。
「ブラインド・ウィリー・マクテル」は、アウトテイクなのに大健闘だ。選者のうち菅野ヘッケル氏と和久井光司氏はともに自分のランキングで、この曲を第1位に選ぶほどの思い入れの強さだ。
久しぶりに『ブートレグ・シリーズ1-3』でこの曲を聴いてみたが、私にはそれほどの曲とも思えなかった。でもたしかにハマる人はハマりそうな感じ。

しかし、60年代の曲の中で、私としてはフォーク期の曲が上位を占めるかと思ったのだが、これははずれた。代わりに何といってもフォーク・ロック期の曲が優勢。上位10曲中の5曲がフォーク・ロック期の曲だ。
この時期の曲は、「ライク・ア・ローリング・づトーン」を別にすると決定的な名曲というのがないので、票が分散して順位がもっと下がると予想していた。ところが、この時期の曲が全体的に票を集めて上位に来ている感じだ。

たとえばランキング50位までの曲の収録曲数を、アルバム単位で見てみよう。いちばん多いのが『ブロンド・オン・ブロンド』で、このアルバムからは7曲が50位までにランクインしている。このアルバムの収録曲数は14曲だから、その半数がベスト50に入っていることになる。すごい。
次いで多いのが、『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』からのランクインで6曲。これも収録曲11曲中の半分以上。で、すごい。
その次が4曲で、『追憶のハイウェイ61』と『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』と『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』の3枚が並んでいる。
ちなみにこの後に『時代は変る』と『血の轍』と『欲望』が、ともに各3曲ずつといったぐあいに続く。
こうして見てもやはりフォーク・ロック期の3枚『ブリンギング・イット…』、『追憶のハイウェイ…』、『ブロンド・オン…』からの曲が全体的に票を集めているのがわかる。

しかし、ここに名前が挙がっているアルバムはやっぱりどれも定評のある名盤ばかり。当然だけど、よい曲が多いのは名盤の証明ということか。ただ唯一50位までに3曲を送り込んだ『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』は、私にとってはちょっと意外な健闘ぶりだ。このアルバム、私にはあまりピンと来ない影の薄いアルバムなのだ。

ディランもデヴュー50周年とのことだが、ストーンズとまったく同様、デヴューしてからの最初の約10年間が活動のピークだったことになる。
私にとってのディランもまさに70年代までの人だ。
思い起こせば、あの1978年の武道館公演を聴きに行って、みごとに肩透かしを食い、私のディランは終わったのだった。
一応アルバムは近作まで手に入れていたのだが、昨年、『ストリート・リーガル』以降のアルバムをきれいさっぱりと処分してしまった。こんなの聴く暇があるなら初期のアルバムにじっくり耳を傾けたいと思ったのだ。
というわけなので新作『テンペスト』にもまったく興味なし。すみません。

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