2012年10月22日月曜日

レッド・ツェッペリンのアルバム5選(後編)

前編では私のレッド・ツェッペリンのアルバム5選を発表した。そしてツェッペリンの10枚のアルバムのうち、このベスト5に入らなかった残りのアルバムについて、その落選理由を述べた。
この後編では、ベスト5に選んだアルバムについて、私なりにコメントしてみたい。

 一応、私の選んだベスト5を再度ここに紹介しておこう。

<レッド・ツェッペリンのアルバム極私的5選>

第1位 『レッド・ツェッペリン ILED ZEPPELIN)』
第2位 『レッド・ツェッペリン III (LED ZEPPELIN III)
第3位 『聖なる館 (Houses of the Holy)
第4位 『レッド・ツェッペリン II (LED ZEPPELIN II)
第5位 『永遠の詩(The Song Remains the Same)』
次 点 『プレゼンス (Presence)

<ベスト5アルバムについてのコメント>

第1位 『レッド・ツェッペリン I (LED ZEPPELIN)

歪んだギターの音色とカッコよくて印象的なリフ。そして悪夢の中で聴こえるような濃密で熱っぽいヴォーカル。さらに、グルーヴ感のない重く人工的なビート。初期ツェッペリンの魅力のすべてがここに詰まっている。
思えばハード・ロックの歴史は、クリームでもなくジミ・ヘンでもなく、まさにここから始まったのだった。もうちょっと細かく見れば、この前年のジェフ・ベック・グループの『トゥルース』と、ツェッペリンのこのアルバムの間あたりに、ハードなブルースとハード・ロックの境界線があると言える。

ジミー・ペイジはかなりベックの『トゥルース』の音作りを参考にしたと思われるが、両方のアルバムに入っているブルース「ユー・シュック・ミー」を聴けば、ペイジの独創性は明らかだ。
ツェッペリンのこのアルバムは、いろいろ元ネタの曲が指摘されていて、流用とか盗用とかいう批判も多い。しかいジャズと同じで、そのアレンジと演奏は完全に独創的。その自信があるからこそ、元ネタのある曲にも自分たちの名前をクレジットしたのではないか、とさえ想像したくなる。

A面の冒頭は「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ (Good Times Bad Times)」。ユニゾンの分厚いリフ。邪悪に歪むギター・ソロ。いきなり衝撃的なツェッペリン・サウンドで、アルバムの幕が開く。
2曲目は一転してアコースティカルなサウンドの「ゴナ・リーヴ・ユー (Babe I'm Gonna Leave You)」。微熱に浮かされているような熱っぽいヴォーカル。サビがアコースティックながらヘヴィーで、ちゃんとハード・ロックになっている。
続く3曲目がダークでダウナーなツェッペリン流ブルース「ユー・シュック・ミー (You Shook Me)」。濃密で浮遊感のある音空間は、悪夢にうなされているよう。
曲間なしで始まる次の「幻惑されて (Dazed And Confused)」はさらに悪夢の世界に踏み込んでいく感じだ。
 こうしてA面が終わる。曲のヴァラエティが豊かなことにあらためて驚く。

この後B面でもさらに多彩な曲が展開される。
インド風味のサイケなアコースティック・ギター・ソロ「ブラック・マウンテン・サイド (Black Mountain Side)」。
硬直したたてノリビートが炸裂する「コミュニケイション・ブレイクダウン (Communication Breakdown)」。
そして再びひしゃげた暗黒ブルース「君から離れられない (I Can't Quit You Baby)」。そこに再び連続する悪夢「ハウ・メニー・モア・タイムズ (How Many More Times)」。

このバンドのその後の展開を予感させる幅広い音楽性がすでにこのデヴュー・アルバムには意欲的に盛り込まれている。同時にそれらが、重く歪んだサウンドの感触と、人工的な硬直ビートによって統一感を持ってまとめられているところが見事だ。
この感触こそが当時の世界の若者達の、そしてロック少年だった私自身の心を、しっかりと捉えたのだった。

第2位 『レッド・ツェッペリン III (LED ZEPPELIN III)

このアルバムには、ミステリアスで不穏で不安を掻き立てるようなところがある。そして、それこそが聴く者の心を引きつける不思議な魅力になっているのだ。
このアルバムの曲は、ウェールズのコテジ、ブロン・イ・アーに滞在しながら、リラックスした状態で作られたという。しかしながら、穏やかで健全な感じはあんまりしない。

1曲目は「移民の歌 (Immigrant Song)」。デヴィッド・フィンチャーの映画『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)で使用されたことも記憶に新しい。昔、リアル・タイムでこの曲がラジオから流れてきたときは、相当にヘンテコな曲だと思った。今聴いても、ギター・ソロのないリフ一本やりの作りで、やっぱりちょっとヘンな曲だ。
10世紀にアメリカ大陸に渡ったヴァイキングの伝説を歌ったということだが、その異様な野性味が印象的で、ちょっとコワい。
そして続く「フlレンズ(Friends)」。アコースティック・ギターの不安な響きと落ち着かないボンゴの音。そこにTレックスのような不穏なストリングスがからむ。
曲が終わっても怪しいシンセの音が鳴り続け、そのまま次の曲「祭典の日(Celebration Day)」へとつながっていく。せわしないスライド・ギターのリフ。明るいというより狂騒的な感じの曲だ。
この冒頭3曲の不穏な雰囲気が何とも強烈。で、かつ魅力的。この印象は、ラスト曲の「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー (Hats off to Roy Harper)」で、リプライズのようによみがえる。

ところでこれに続く4曲目の「貴方を愛しつづけて (Since I've Been Loving You)」は、ツェッペリン流ブルースの傑作だ。ヴォーカルもギターもニュアンスに富む演奏。中間のペイジのソロは珍しく叙情味にあふれている。またジョン・ポール・ジョーンズのオルガンがいい味を添えている。

発表当時は評判の悪かったアコースティック・サウンドのB面だが、ボーナムの重いドラムスとプラントのハイ・テンションのかん高いヴォーカルがある限り、どう転んでもやっぱりヘヴィーなロックになってしまう。
B面1曲目の「ギャロウズ・ポウル (Gallows Pole)」がその典型。内容はブリチィッシュ・トラッド的だが、ビートが強烈でアコースティックなハード・ロックだ。
ペイジとプラントは二人ともCSNYが好きらしいが、プラントの濃い歌唱では、CSNYのようなさわやかさは出るはずもない。唯一ウエスト・コースト風なのが「ザッツ・ザ・ウェイ (That's The Way)」だ。ドラムスが入ってないせいもある。

ドラムスの入っていないもう一つの曲がラストの「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー」。異様にスライドし続けるアコースティック・ギターと過剰にイコライジングされたヴォーカルだけのシュールで、まるで妄想と狂気にとらわれたような曲。先に触れたように、ここでアルバム冒頭の不穏な雰囲気がよみがえる。
こんな後味のすっきりしないラスト曲も珍しい。で、また頭から聴きたくなるのだ。

ところで、1作目、2作目でハード・ロック路線を切り開いた彼らが、この3作目ではソフトなアコースティック・サウンドに振れ、4作目の「天国への階段」で両方の要素が統合された、という言い方がされる。
けれど、これはいかにも紋切り型の見方だ。1作目にも2作目にも印象的なアコースティック・サウンドはあった。また一方、この3作目には全体として十分にハードな感触がある。つまり、このアルバムがハード・ロック路線の例外というわけではけっしてないということだ。

第3位 『聖なる館 (Houses of the Holy)

密室的で陰湿で不健全で、それがこの上ない魅力だったそれまでのツェッペリンだったが、ここで「更正」して、一応、前向きな音作りに転換したアルバムと言えるだろうか。

そんな転換を象徴するのが1曲目の「永遠の詩 (The Song Remains the Same)」だ。とにかく冒頭からいきなりやる気満々、元気一杯だ。肯定的でポジティヴなエネルギーを感じさせる確信に満ちた演奏が展開される。
ギターの音が幾重にも重ねられ絡み合ういくつかのパートが、めまぐるしく入れ替わるプログレ的構成。肯定的であることもあわせて、そのめまぐるしい展開はイエスの曲に近い感じがある。

続く「レイン・ソング (The Rain Song)」は、曲調的に1曲目と対になっているような感じ。ちょうどクラプトンの「レイラ」の前半部と後半部のように。
しっとりとした叙情味にあふれたメロウな曲だ。ジョン・ポール・ジョーンズのピアノとメロトロンが印象的。こんなふうに、ノーマルでストレートな叙情を感じさせる曲は、これまでのツェッペリンにはなかった。以前の彼らなら、もっと閉鎖的で病的な感じがしたはずだ。

「丘のむこうに(Over the Hills and Far Away)」は、ちょっとした口直し。その後、A面最後の「クランジ」からB面の全体(「ノー・クォーター」を除いて)にかけて耳に残るのは、メタリックでソリッドな音色と変拍子、そして凝ったクセのあるリフだ。

「クランジ (The Crunge)」は変拍子のソリッドなファンク。[更正]したわりにはかなり異常。で、やっぱりそこがカッコいい。トーキング・ブルース的なエンディングもグッド。
「ダンシング・デイズ (Dancing Days)」は、何となくノスタルジックな歌の内容に対し、延々と繰り返される重くてメタリックなリフがミスマッチで、そこがヘンに印象的。
「デジャ・メイク・ハー (D'yer Mak'er)」。これはたぶん半分冗談なんだろうけど、50年代のロックン・ロール風なレゲエ、あるいはその逆。いずれにしても、その軽くてアメリカン・ポップな雰囲気が、ドッスン、ドッスンの重たいビートとこれもまたミスマッチ。で、やっぱりヘンに印象に残る。

[クランジ]から「デジャ・メイク・ハー」までの3曲は、何だか調子が外れている。
このアルバムのためのセッションでは、他に「流浪の民」とかタイトル・ソングの「聖なる館」など、もっとちゃんとした曲も録音されている。にもかかわらず、それらをアウト・テイクにして(結局、次作の『フィジカル・グラフィティ』に収録)この3曲をあえて選んだことになる。
 ストレートに前向きな「永遠の詩」や「レイン・ソング」とバランスをとるために、ちょっとお遊びを入れてみたたかったということなのか。

そして、格調高く神秘的な「ノー・クォーター (No Quarter)」がきて、さらに締めが変拍子リフの強力な「オーシャン (The Ocean)」だ。この曲のラスト、締めの締めはいきなりリズムが変わってドゥーワップで終わる。なるほど、これで全体が丸く収まったという感じ。恐れ入りました。

一応おさらい。このアルバムの聴き所は結局、二つ。
アルバム冒頭のメドレーのようにつながる2曲、「永遠の詩」と「レイン・ソング」における肯定的で確信に満ちた演奏がひとつ。
ふたつめが、アルバム全体の随所で光るメタリックなリフ、それと変拍子に特徴的な非黒人的で人工的なノリの冴えだ。
このツェッペリン・サウンドの最大の特徴が、究極の形でここに展開されていると言ってよいのではないか。

第4位 『レッド・ツェッペリン II (LED ZEPPELIN II)

初期のツェッペリンのアルバムの中では、一般的には最も評価の高いアルバム。つまり1作目よりも、3作目よりも良いアルバムとされている。
じつは私が初めて買ったツェッペリンのアルバムがこれだった。ずいぶん何回も聴いたから、それなりに愛着のあるアルバムではあるのだが、結局、私にとってはこのくらいの順位ということになる。

このアルバムのハイライトは、何といってもB面1曲目の「ハートブレイカー(Heartbreaker)」だ。
重低音サウンド、ひねったリフ、歪んだギターの音。初期のツェッペリン・サウンドの魅力を集約したような曲だ。
そして何といってもペイジの必殺の「無伴奏」ソロのカッコよさ。あまりたいしたことをしているようでもないのだが、大見得がぴったりと決まったという感じ。
 
 しかし、他の曲がわりと地味なのだ。
シングル・カットされてツェッペリンの最初のヒット曲となった「胸いっぱいの愛を(Whole Lotta Love)」。ツェッペリンの代表曲のように言われているけど、私はこの曲の中間部のフリー・フォームになるところが気に入らない。約1分半にもわたって、初期ピンク・フロイドのようなサイケ風のパートが展開される。聴いていると、ここでいつも手持ち無沙汰になってしまうのだ。

この曲もそうだが、このアルバムでペイジが重視したのは、「極端な強弱のめりはり」ではないかと思われる。
「強き二人の愛(What Is And What Should Never Be)」、「レモン・ソング(The Lemon Song)」、「ランブル・オン(Ramble on)」、「ブリング・イット・オン・ホーム(Bring It on Home)」など、みんなそういう作りだ。
 その「弱」の部分のせいで」何となく全体としてすっきりとした爽快感がない。もっとも「レモン・ソング」で聴かれるようなジョン・ポール・ジョーンズのベース・ラインの上で、ギターとヴォーカルがねちっこく絡むところなんかは、なかなか素敵なんだけど。

このアルバムの聴き所は、曲単位でどうこうというよりも、アルバム全体でのギターの音の歪み具合と、あちこちでキラリと光るリフの魅力だろう。「モビー・ディック(Moby Dick)」のリフなんか、ツェッペリンの曲の中でも一二を争うカッコよさだと思う。それに続くドラム・ソロは最悪だけど。

第5位 『永遠の詩(The Song Remains the Same)』

私はこのアルバムを、映画のサウンド・トラックとしてではなく、また彼らのライヴの迫力を伝える記録としてでもなく、どちらかと言えばもうひとつのオリジナル・アルバムとして聴いてきた。
ここで聴ける曲の多くが、オリジナルのスタジオ・ヴァージョンよりも優れているような気がする。
たとえば「ロックン・ロール」。オリジナルでは単調でめりはりのなかったこの曲が、ここでは勢いのあるめりはりを効かせた演奏で、こんなに良かったっけ、と思わせるような曲になっている。
その他「ノー・クォーター」なんかも、オリジナルよりずっと魅力的な曲に生まれ変わっている。
さらに、「幻惑されて」や「胸いっぱいの愛を」なんかは、元とは全然別の曲と言った方がいい。
LPの片面全部を使って30分近く続く「幻惑されて」は、映像なしではつらいなんて言われている。しかし私には、このゆるやかなプログレ的展開がけっこう楽しめてしまう。映画だと、この曲のところでペイジの魔法使いの映像がでてくるけど、そんなの別に見たくないよね。

そしてこのいアルバムは、全体としての作りもよく出来ている。曲数は2枚組で9曲と多くはないが、配列もよくてまとまりがある。
後年このアルバムの内容に、未収録曲6曲を追加し、曲順も実際のコンサートにあわせた「最強盤」というのが出た。もちろんこちらの方が当日のコンサートに近いことは間違いない。しかし、長くオリジナルの9曲収録盤に親しんできた耳には、何だか違和感を感じてしまう。それに時間が長過ぎて集中力を持続できない。

それにしてもギター多重録音の曲の数々、たとえば「永遠の詩」なんかを、ライヴだとギター一本で演奏してしまうところが何とも凄い。テクニックはもちろんとして、演奏しきってしまうその勢いがアッパレだ。

というわけで、以上がベスト5アルバムについてのコメント。

ところで、近々2007年のツェッペリン再結成ライヴの映像とCDが発売されるとかで、今、大きな話題になっている。でも私にはまったく興味なし。
何年か前のクリームの再結成ライヴで、がっかりさせられたということもある。結局どんなにがんばってみても、またテクニック的に上達したとしても、脂ののった往年のオーラに満ちた演奏にかなうはずもない。
このベスト5アルバムをはじめとして、昔のアルバムさえあれば、それで私は十分満足なのだ。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。当時から今でもツェッペリン聴いているオッサンです。
    自分の感想にとてもピッタリくるレビューだと思いました。
    (個人的には2007年のコンサートはとても良かったと思いました。YouTubeにもアップされてますので、ご覧になってはいかがでしょう?)

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  2. コメントありがとうございました。
    私と同じようなオールド・ファンがほめているならと、2007年のライヴにちょっと興味がわいてきました。

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