2013年9月21日土曜日

ザ・バンド 『ロック・オブ・エイジズ』の完全版を検討する


ザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』の拡大版(r完全版?)が発売される。タイトルは『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック1971』。これにサブ・タイトルとして『ロック・オブ・エイジズ・コンサート』がつく。雑誌の広告では、『ロック・オブ・エイジズ・コンサート』の方がメイン・タイトル的に扱われていたが、ジャケット写真ではこちらの字の方が小さい。
例によってCD2枚組の通常版と、通常版にさらにCD2枚とDVD1枚を加えた5枚組のデラックス・エディションの2種が出る。

『ロック・オブ・エイジズ』は、私の大好きなアルバムだ。個人的には、このアルバムがザ・バンドのベストだと思う。つまり名盤の誉れ高いファーストやセカンド・アルバムよりも、こちらの方が優れていると思っている。
その拡大版が出るとなれば、やはり落ち着いてはいられない。すごく気になる。どんな中身なのか知りたい。
『レコード・コレクターズ』誌の予告によると、次号(201311月号)のメインの特集が、ザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』とのこと。これを見れば、内容が詳しくわかるだろう。
しかし、広告ページをよく見ると、アルバムの発売は9月25日。あれ、もうすぐじゃないの。次号の『レコ・コレ』誌を待ってたら間に合わない。そこで、何とか発売前に自前で検討することにした次第だ。


<オリジナル版『ロック・オブ・エイジズ』について>

その前に、オリジナル版『ロック・オブ・エイジズ』について、おさらいしておこう。
1968年のデヴュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』と1969年のセカンド・アルバム『ザ・バンド』によって、ザ・バンドはいきなり高い評価を得た。たしかにこの2枚は神がかったところがある名盤だ。しかし、続く1970年のアルバム『ステージ・フライト』と1971年の『カフーツ』は、憑き物が落ちたような感じで、世間の評価も今ひとつだった。
そんな折に起死回生をかけて企画されたのが、ライヴ・バンドとしての本領を記録したライヴ・アルバムの制作だった。

そして1971年の年末、12月28日から31日の大晦日までの4日間、ニューヨークのアカデミーオブ・ミュージックを会場として4回の連続コンサートが開かれたのだった。最終日は、ニューイヤーズ・イヴ・コンサートと銘打たれているが、途中で観客と共に年を越してニューイヤーにまたがる年越しライヴとなった。

この4回のコンサートの特徴は、約半数の曲に新たにホーン・セクションのパートが加わっていること。
コンサートの構成は、第1部と第2部にわかれていて、第1部はザ・バンドのみの演奏。第2部からはホーン・セクションが加わっている。新たに加えられたホーン・パートのアレンジは、ニューオリンズR&B界の大立者アラン・トゥーサンが担当している。演奏はニューヨークの5人のホーン・プレイヤーたちが参加。ホーンの分厚い音が加わって、ザ・バンドの曲は強靭にうねるグルーブ感を増している。
それから、最終日のアンコールの後、サプライズ・ゲストとしてボブ・ディランが登場したのも話題となった。ディランとバンドは、ここで4曲共演している。

この4回のコンサートからベスト・トラック17曲を選曲し、曲順など新たに構成しなおして、LP2枚組に収めたのが『ロック・オブ・エイジズ』だ。ロックのライヴ・アルバムとしてはもとより、ロック・アルバムの名盤の一つに数えられていることは、あらためて言う必要もないだろう。

なおごく最近知ったのだが、このアルバムのタイトルであるロック・オブ・エイジズとは、もともとキリストを指す言葉なのだという。聖書では「ちとせの岩」と訳されていて、永遠のよりどころとしてのキリストという意味とのことだ。アルバムのタイトルは、これに永遠のロックという意味を重ねているわけだ。

さてCDの時代になり、2001年にこのアルバムのリマスター版が出た。これは、LPと同様のCD2枚組だったが、その内容は大きく違っていてびっくり。LP2枚分の本編は、ディスク1にそっくりそのまま収められている。残りのディスク2が、何と丸ごと未発表音源のボーナス・ディスクだったのだ。
未発表音源は全部で10曲。4回のコンサートの中から、本編に入らなかった残りの曲目のベスト・トラックが収められている。アルバムの内ジャケ写真には載っていたのに、本編には収められなかったディランとの共演4曲も含まれている。

私の手元にあるCDは、2004年の紙ジャケ・リイシュー版で、中身は2001年のリマスター・ヴァージョンと同じだ。添付されているライナーの宇田和弘の解説によると、このコンサートで演奏された曲目数は、全部で29曲だという。リマスター版は、本編が17曲とボーナス・ディスクが10曲だから、合計で27曲。あと2曲足りない。その2曲とは「ストロベリー・ワイン」と「スモーク・シグナル」だ。
ボーナス・ディスクの収録時間にはまだ十分余裕があったのに、何でこの2曲だけ入れなかったのだろう。そんなに出来が悪かったのか。

この内「スモーク・シグナル」は、200510月に発売された、『ザ・バンド・ボックス~ミュージカル・ヒストリー』のディスク4に収録されている。残るはあと1曲「ストロベリー・ワイン」のみとなったが、長くそんな状態が続いていたのだ。
それが、何と今回の『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック1971』に初収録されているのだ。なるほどこれなら完全版と言えるかも。まっ、その話は後で。


<『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック1971』を曲目から検討する>

今回発売される『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック1971~デラックス・エディション』は、CD+DVDの5枚組。一応、その内容を紹介しておこう。

ディスク1と2(CD)は、4回のコンサートのベスト・トラック29曲を収録。「ロック・オブ・エイジズの完全版」と銘打たれている。
ディスク3と4(CD)は、12月31日のニューイヤーズ・イヴ・コンサートをノーカットで完全収録したもの。
ディスク5(DVD)は、ディスク1&2の内の25曲の5.1サラウンド・ミックスと、さらに2曲(「キング・ハーヴェスト」と「WS.ウォルコット・メディシン・ショウ」、どちらも12月30日)の演奏シーンの映像が収録されている。
なおディスク1と2は、2枚組の通常版として単独でも発売されるらしい。

発売元のホームページで、それぞれの収録曲目の内訳をざっと見てみた。曲目表には、その曲の収録日と、これまで未発表だった音源には印がついている。それを見ながら私なりに感じたことをコメントしてみる。


□□ディスク1&2  ロック・オブ・エイジズの完全版

ディスク1と2は、4回のコンサートのベスト・トラックを収録したもの。このコンサートで演奏された曲目数は全部で29曲。広告の文字は「ロック・オブ・エイジズの完全版!全29曲収録!」と高らかに謳い上げている。
たしかにこれまで唯一未発表だった「ストロベリー・ワイン」もちゃんと収録されている。
しかし、未発表マークがついているのはこの1曲だけ。つまり残りの28曲はすべて既発表のヴァージョンということになる。つまり、リマスター版の『ロック・オブ・エイジズ』の27曲とボックス・セット『ミュージカル・ヒストリー』の1曲が、そのまま収録されているということだ。
しかも、この29曲がセット・リストどおりに並べられてコンサートを再現するようになっているわけではない。この曲の配列には、どのような意図があるのだろう。要するにリマスター版の『ロック・オブ・エイジズ』本編とボーナス・ディスクの曲に、ただ2曲追加してシャッフルしたような感じだ。

これなら私としてはリマスター版の方を取る。オリジナル版の『ロック・オブ・エイジズ』の構成は、実によく練られていて完成度が高いからだ。コンサートのセット・リストが再現されるのでない限り、2曲増えたとはいえ、ごちゃごちゃにシャッフルされた形で聴こうとは思わない。
というわけで、ディスク1&2は、完全版とはいえ、何だかとても魅力度の低い内容だ。


□□ディスク3&4  ニューイヤーズ・イヴ・コンサート(完全収録盤)

ディスク3と4は大晦日のニューイヤーズ・イヴ・コンサートをノーカットで収録したものだ。これは、やっぱり聴いてみたい。当日のセット・リストどおりに聴けるのは魅力だ。結局このデラックス・エディションのキモは、このディスク3と4にある。

2枚のディスクの内容の振り分けもよい。ディスク3にはコンサートの第1部(ホーン・セクションなし)の11曲が収められ、ディスク4には第2部(ホーン・セクションが参加)とアンコール2曲とその後に登場したディランとの4曲が収められている。
ただ宇田和弘によると(2004年リマスター盤ライナー)、第1部の曲は全部で12曲だったはずなのだが、ここで演奏されているのは11曲。「ストロベリー・ワイン」が入っていないのだ。
ノーカットのはずだから、この最終日には演奏されなかったのだろう。もしかして前日までのコンサートで納得がいく演奏が出来なかったので、この曲をセット・リストからはずしたのだろうか。そうだとしたら、最後までこの曲の録音が日の目を見なかったのも説明がつくのだが…。

ところでこの曲目表を見て、ひとつ驚いたことがある。
オリジナル版の『ロック・オブ・エイジズ』の「チェスト・フ;イーヴァー」が、この最終日の録音ではなかったことだ。あのアルバムでは、ガース・ハドソンの長いオルガン・ソロ「ジェネティック・メソッド」の途中で、「蛍の光」のメロディーになり、めでたく新年を迎える。そしてオルガン・ソロから連続して「チェスト・フィーヴァー」が始まっていた。まさにこのアルバムのハイライトの一つと言ってもよいだろう。
だから当然誰もがこの「チェスト・フィーヴァー」は大晦日の(と言うか厳密には年が明けてからの)演奏と思っていた。ところが、そうではなかったのだ。ディスク4の曲目表では、この曲にこれまで未発表というマークがついている。ディスク2のこの曲のデータを見ると、12月28日になっている。つまり、『ロック・オブ・エイジズ』では、大晦日の「ジェネティック・メソッド」の後に、28日の「チェスト・フィーヴァー」を編集でつないでいたことになる。

これと関連するが、ニューイヤーズ・イヴ・コンサートの曲目には、意外とこれまで未発表の表示が多い。ディランとの4曲を除いてこの最終日に演奏された曲は23曲。この内これまで未発表だったのが16曲もある。つまり、『ロック・オブ・エイジズ』に使用されたトラックは7曲だったことになる。
これまで『ロック・オブ・エイジズ』の17曲の大半は大晦日の録音と言われていたが、じつはその比率は半分以下だったことになる。まあそれでも他の日よりはたしかに多いのだが。
未採用となったテイクが多いこの日の演奏。はたしてアルバム全体としての出来はどうなのだろう。実際に、聴いてみないとわからないな。


□□ディスク5  5.1サラウンド・サウンドと映像クリップ

.1サラウンドを聴くシステムは持ってないので、自分には関係ないディスク。映像も2曲のみではねえ。


□□このセット全体について

セットの全体の印象としては、何とも中途半端な構成だということになる。ディスク1&2の29曲と、ディスク3&4の27曲の内、なんと11曲が同一音源でダブっているというのが、どうにもすっきりしない。

ディスク1&2は、曲目数は完全版でも、曲順をシャッフルしたのが失敗。これはディスク1にオリジナル『ロック・オブ・エイジズ』をそのまま収録し、ディスク2にボーナス・トラックとして残り12曲を収録、つまり2001年リマスター版のボーナスディスクに2曲追加した形で、『ロック・オブ・エイジズ』完全版として単独で発売すべきだったのではないだろうか。フアンなら2001年版を持っていても必ず買うはず。

ディスク3&4も、単独のライヴ作品として出してほしかった。すっきりしないセット販売にしたのは、金儲けのため?14700円も出さないと聴けないとは。この間出たディランの『アナザー・セルフ・ポートレイト』の売り方を思い出す(ワイト島ライヴが売りだが、デラックス・エディションを買わないと聴けない)。

今回のセットがマニア向けと言うなら、私にさらにいいアイデアがある。4回のコンサートをそれぞれ2枚のCDにコンプリートに収め8枚組のセットにするのだ。これぞ本当の完全版。ジャズの世界では、よくあるやり方だ。私なら買うよ。

というわけで今回の『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック1971』も私は買わないことにする。例によってディスク3&4だけ、知人にダビングしてもらおう。

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