2013年9月26日木曜日

クロスビー、スティルス&ナッシュの関連アルバム


クロスビー、スティルス&ナッシュの関連アルバムが紙ジャケ化されるという。『レコード・コレクターズ』誌の今月号(2013年10月号)に、「クロスビー、スティルス&ナッシュ 紙ジャケットCDコレクション」と銘打って広告が載っていた。

全9タイトルで、2013年9月25日(水)同時発売。各2500円也。どれも初紙ジャケット化で、例によって初回生産限定とのこと。
 9タイトルの内訳は、CS&N名義が2枚、スティルスのソロ(マナサス含む)が4枚、クロスビーとナッシュのソロが各1枚、そしてクロスビー&ナッシュ名義1枚。詳細は以下のとおり。

・クロスビー、スティルス&ナッシュ 『クロスビー、スティルス&ナッシュ』
・クロスビ-、スティルス&ナッシュ 『CSN』
・デイヴィッド・クロスビー 『イフ・アイ・クッド・オンリー・リメンバー・マイ・ネーム』
・スティヴン・スティルス 『スティヴン・スティルス』 
・スティヴン・スティルス 『スティヴン・スティルス 2』
・スティヴン・スティルス マナサス 『マナサス』
・スティヴン・スティルス マナサス 『ダウン・ザ・ロード』
・グラハム・ナッシュ 『ソングス・フォー・ビギナーズ』
・グラハム・ナッシュ デイヴィッド・クロスビー 『グラハム・ナッシュ デイヴィッド・クロスビー』

広告には9枚のアルバムのジャケット写真がずらりと並んでいる。ページの約三分の一の小さな広告だ。しかしCSN&Yのファンとしては、やっぱり心がざわつく。一応どれも手元にはあるのだが、紙ジャケと聞くと…。
同時発売で、その発売日はもうすぐ。どうしようかなあ。
昔の私なら、即オトナ買いということになったかもしれない。しかし今は隠居の身だ。すでに手元にあるアイテムにはもう手を出すまい、と心に決めたはずだったのだが…。

ウェブで確認したら、その後、発売日が変更になっていた。スティルス関連の4枚のみが予定どおり9月25日発売で、残りの5枚は11月6日に延期になったようだ。発売が2期に分かれると、たぶん勢いで買うオトナ買いの人は減るんじゃないのかな。それとも資金繰りのめどがついて、逆に増えるのか。
ともかくこれであせらなくてもよいことになった。だんだん気持が落ち着いてくる。

冷静になってよく考えてみると、今回のラインナップはイマイチな感じがしないではない。たしかに初期CS&N関連のアルバムを網羅してはいる。しかし、別の見方をすれば、CSN&Y関連アルバムから、肝心のCSN&Yとニール・ヤングのソロ作を除いた残りということにもなる。
CSN&Y名義では『デや・ヴ』と『4ウェイ・ストリート』があり、またこの時期のニール・ヤングのソロ作としては『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(1970)とか『ハーヴェスト』(1972)なんかがある。オリジナルCSN&Y関連のアルバムのいちばん美味しいところだ。
こう考えてしまうと今回紙ジャケ化されるCS&N関連9作には「残りもの」感が漂うのだ。こうして頭を冷やしたところで、勢いだけのオトナ買いなど考えないことにして、一枚一枚じっくり吟味してみることにする。
どうでもいいことだけれど、このあいだの新聞の運勢欄によると今週の私の運勢は、「仕分けをすると吉。必要か否かを見極めて」とのこと。さあCDを聴きながら仕分けだ。


□ クロスビ-、スティルス&ナッシュ 『クロスビー、スティルス&ナッシュ』

オリジナルCSNYの原点であり、文句なしの名盤。これは、何をおいても買わなければ。
斬新で力強いコーラス・ハーモニーとメロディアスなフレーズは、今聴いても新鮮で瑞々しい。微妙な翳りのある繊細なサウンドは、折しも内省化へ向おうとする時代の曲がり角にぴったりと寄り添っていたのだった。


□ クロスビー、スティルス&ナッシュ 『CSN』

今回のラインナップの中で、あきらかに異質なのがこの『CSN』。他のアルバムは1969年(CS&Nのデヴューアルバム)から、1973年(マナサスのセカンド)までのもので、オリジナルCS&N関連作と一応言える。けれども、この『CSN』だけは、その少し後の再編CS&Nによるものだから別ものだ。これでは強引なセット販売だ。

内容的にも今ひとつ。当人たちは以前と同じことをやっているつもりなのだろうけれど、いかんせん時代の方が彼らを置いてきぼりにしてしまっていたのだった。


□ スティヴン・スティルス 『スティヴン・スティルス』

CSN&Yの『デジャ・ヴ』と同じ1970年に発表されたスティルスのファースト・ソロ・アルバム。フォーキーな印象の『デジャ・ヴ』とは違って、こちらはブルースやゴスペルやソウルなど黒人音楽風味がやや強い。
ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトン、リンゴ・スターなどなどゲスト陣が異常に豪華でにぎにぎしい。だが、この人たちのプレイを期待すると、ちょっと肩透かし。しかしそれ以前に、曲そのものがどれも小粒で魅力がない。聴きものは「愛の賛歌(Love the one youre with)」と「ブラック・クイーン」くらい。

スティルスの最高傑作という人もいるが、私には全然そうは思えない。器用な人が、グループの束縛から離れ自分の思うようにやりたくてソロ・アルバムを作ると、たいていちまちまとしたつまらないものができる。ポール・マッカートニーの『マッカートニー』がその好例。ステテルスのこのアルバムも、ある意味でそんな感じがする。


□ スティヴン・スティルス 『スティヴン・スティルス 2』

クラプトンがまた参加してはいるものの、ゲスト陣は前作よりも地味。しかし、メンフィス・ホーンを加えたり、曲のつくりにメリハリをつけたりして、音そのものは前作よりもカラフルな感じだ。
聴きものは「今日があるさ(Nothin' To Do But Today)」とか、フォーキーで渋い「ノウ・ユー・ゴット・トゥ・ラン」と「ワード・ゲーム」あたりだ。
しかし、例によって駄曲も多い。とくに「リラクシング・タウン」とか「マリアンヌ」みたいな能天気なロックン・ロールには、何のとりえもなし。それから「オープン・シークレット」のラテン・リズムに乗ってのひどくお粗末なピアノ・ソロは、いったいどういうつもりなんだろう。全体としては凡作。


□ スティヴン・スティルス マナサス 『マナサス』

60年代から70年代へというロックの曲がり角で、たしかにスティーヴン・スティルスは、光り輝く存在だった。でも結局70年代の半ばを待たずに、この人の時代も終わってしまう。
今振り返ればあきらかなことだが、当時ライヴァル関係にあったニール・ヤングとば、アーティストとしてのスケールが全然違ったのだ。スティルスは、器用なマルチ・プレイヤーだし、音楽センスもよい。しかし「思想」がなかったのだ。だからどこまでいってもミュージシャンでしかなく、アーティストにはなれなかったということなのだろう。

そんなスティルスの「旬」の時代の最後の輝きがこのアルバム。前2作のソロ作とは打って変わって、地に足の着いた充実した内容のアルバムになっている。スティルス・バンドにフライング・ブリトー・ブラザーズが合体して、スティルスのワンマン体制に歯止めがかかったのが吉と出たのではないだろうか。
主にブルース、カントリーなど南部サウンドをベースにしたアメリカン・ロックが展開されているが、CSN&Yを発展させたような音も聴ける。ただ難点は、LPで2枚組というヴォリュームが長過ぎるということか。これを1枚に圧縮したらさぞかし名盤になったと思う。


□ スティヴン・スティルス/マナサス 『ダウン・ザ・ロード』

マナサスの2枚目。私の言うことを聞いてか(?)シングル・アルバムになった。前作と同じようなことをやっているのだが、しかし、演奏に前作のような精彩さがなくて、フツーのアルバムになってしまった。


□ デイヴィッド・クロスビー 『イフ・アイ・クッド・オンリー・リメンバー・マイ・ネーム』

クロスビーの風貌はまるで孤高の仙人のようだ。そして彼の曲もそんな風貌にぴったり見合っている。独特のコード感覚とハーモニーには、崇高な感じさえ漂っている。
CS&NやCSN&Yで聴けるこの人の曲の数々。「グウィニヴィア(Guinnevere)」、「ロング・タイム・ゴーン」、「カット・マイ・ヘアー(Almost Cut My Hair)」、「デジャ・ヴ(Deja Vu)」、「トライアド~リー・ショア(TriadThe Lee Shore)」などなど。どれも本当に素晴らしい。

そんなこの人の独特な歌の世界にたっぷり浸りたくて、このソロ作を聴いたのだったが…。結果は薄味でちょっとがっかり。きりきりと張りつめたような緊張感がなくて、全体にもっとゆったりした印象だった。
しかし随所で、例の独特のコーラス・ハーモニーが聴ける。最後の曲のアカペラのコーラスには、中世の教会音楽のような響きがあり、クロスビーのハーモニー感覚の原点を垣間見る思いがする。
サウンド的には、グレイトフル・デッドの面々が参加していることもあって、一見クールながら、ところどころでじわじわと熱っぽく盛り上がる。そんな面での聴きどころは、2曲目の「Cowboy Movie」(ギターはガルシアとニール・ヤングか)と、これに続く「Tamalpais High (At About 3)」だろう。

この人はその孤高さの漂う風貌にもかかわらず、むしろ誰かと一緒にやった方が、自分の持ち味を最高に発揮し、真価をあらわす人なのかもしれない。
でもとにかくこれは深い精神性を感じさせる名盤だ。


□ グラハム・ナッシュ 『ソングス・フォー・ビギナーズ』

グレアム・ナッシュという人は、よく言えば素朴で素直、悪く言えば単純で能天気。頑固なところもあって素朴な正義感から、反戦ソングやプロテスト・ソングも歌っている。でも単純な人の頑固さって、ただのワガママのようにも見える。だから底が浅く聴こえてしまう。
ナッシュの曲は、CSN&Yのアルバムのピリピリした緊張感の中に、息抜きのようにあしらってあるくらいでちょうどよいのだと思う。どこまで行ってもこれでもかと素朴で素直で甘ったるいこのアルバム。通して聴くとなるとやっぱり飽きてしまう。


□ グラハム・ナッシュ&デイヴィッド・クロスビー 『グラハム・ナッシュ/デイヴィッド・クロスビー』

これはあまり高く評価されているのを聞いたことないけれど、私的には、オリジナルCSN&Y関連のアルバムの中では、間違いなく名盤のひとつだと思う。

それぞれのファースト・ソロ作の後に、このデュオ作が作られている。そのためクロスビーの「ウォール・ソング」やナッシュの「イミグレーション・マン」など、それぞれのソロ作のアウト・テイクと思われる曲もある。
しかしこのアルバムのために書かれたクロスビーの曲がいい。「ホール・クロス」、「ホエア・ウィル・アイ・ビー?」、「ページ43」、「ゲームス」とどれも素晴らしい。ピーンと張りつめた緊張感と硬質で透明な叙情が心を打つ。
そしてまたこのアルバムでは、ナッシュの曲もなかなかよいのだ。ソロ作のときのような能天気さはなく、多くの曲が孤独な状況を歌った翳りのあるしっとりと落ち着いた曲だ。

このアルバムは窓が抜いてある変形ジャケだった。紙ジャケなら当然再現してあるのだろうから、これは買いだな。


というわけで、仕分け作業終了。私はどのアルバムの紙ジャケを発注するでしょう?答えはあえて書かないことにする。まあこれでオトナ買いからはまぬがれた。

ところで紙ジャケというなら、やはり本命のCSN&Yの2枚、『デジャ・ヴ』と『4ウェイ・ストリート』を出して欲しいな。
『デジャ・ヴ』は以前に出たような雑な作りではなく、文字は箔押し、集合写真は別刷りの貼り込みで再現して欲しい。
『4ウェイ・ストリート』は、私的にはディスク1のボー・トラ4曲抜きでお願いしたい。ディスク1のラストは、やっぱりスティルスの「Love the one youre with」で締めて欲しいから。よろしく。

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