2012年12月20日木曜日

キング・クリムゾン『太陽と戦慄』への道のり(第2回)

<「アイランズ」期の終わりと「太陽と戦慄」期の始まり>

1972年の4月1日、キング・クリムゾンは北米ツアーの終点であるアラバマ州バーミンガムで最終公演を行った。そしてこれを最後に、アイランズ期のクリムゾンは、空中分解のように消滅したのだった。

ロバート・フリップは、さっそく新規のメンバーを探し始める。
そして、3ヶ月後の7月には、新メンバーのラインナップが確定。9月にはそのメンバーでのリハーサルに入っている。
次のアルバム『太陽と戦慄』の録音は、翌年1973年の1月から2月にかけてのこと。それに先立つこの時期、新生クリムゾンはライヴ活動を開始するのだ。
10月にはドイツで数回の演奏を行い、11月から12月にかけては英国国内を巡るツアーを行っている。

このときのライヴ音源を聴くと、9月のリハーサルの時点で、アルバム『太陽と戦慄』の収録曲はもうすべて完成していたことがわかる。さらに何よりも、ロバート・フリップによる新しいクリムゾンのサウンド・コンセプトが、きっちりと固まっていることもわかってくる。
翌年初頭のアルバム制作に向けて、クリムゾンはライヴの場においで新しいコンセプトによる新曲を、いわばぐつぐつと濃縮していったのだった。

今回の『太陽と戦慄 40周年記念ボックス』のライヴ音源部分(ディスク1~9)は、この1972年のリハーサルの後、翌年1月のスタジオでの録音に到るまでのライヴ音源を集成したものだ。
前回書いたように、このボックス・セットの趣旨に沿いながら、しかしあくまでこのボックスは買わずに、手元の音源で代用して、この時期のクリムゾンの足跡を辿ってみたいと思う。
なお、2012年12月号の『レコ・コレ』誌の『太陽と戦慄』特集には「40周年記念ボックス解説」という記事が掲載されている。その中で筆者の石川真一氏により、上記のライヴ音源部分についても要領よくと紹介されている。なので、ここではなるべく私なりの感想にしぼって述べていきたい。

<ドイツでのウォームアップ・ギグ>

■ 1972年10月13日 フランクフルト、ズーム・クラブ(The Zoom ClubFrankfurt

『40周年記念ボックス』のディスク1、2に収録されている。この内容は、『コレクターズ・キング・クリムゾン』シリーズとして既に発売済み。

9月からリハーサルを行っていた新生クリムゾンは、翌10月13日から15日までの3日間、ドイツのフランクフルトにあるズーム・クラブで、初めて人前に姿を現わす。これは、その初日13日の演奏をコンプリートに収録したものとのことだ。

『コレクターズ・…』シリーズ盤のライナーには、ロバート・フリップの記録用の録音とある。しかし、客の声が手前にはっきり聴こえるので、オーディエンス録音のブートレグが元になっているのではないかと思われる。
ちなみに、私は『コレクターズ・…』シリーズ盤の他に、このときのブートレグも持っている。両者は明らかに同音源だ。
この日の『コレクターズ・…』シリーズ盤は、音質が良くないと言われているが、それでもやっぱりブートレグよりは多少ながら音質が向上している。
以下に述べる他の日の音源についても、この『40周年記念ボックス』で、ブートレグよりどの程度音が良くなっているかはかなり気にかかるところだ。

さてアルバム『太陽と戦慄』の曲は、もうこの時点で出来上がっていて、収録曲6曲すべてがこの日のステージで演奏されている。しかもアルバムの曲順のとおりに。
そして、この6曲の合い間に、4曲の即興曲が演奏される。即興曲は曲名の前に「Improv(インプロヴィゼーションの略)」と表記されているものとそうでないものがある。たぶん表記なしのものは、おおまかな構成と展開がある程度事前に決められた上での即興演奏ということなのではないだろうか。ということは、あとの曲はまったく何も決めないでのぞんだ即興と言うことになるわけだが。

セット・リストで特徴的なのは、それ以前のクリムゾンの曲はいっさい演奏していないということだ。過去のクリムゾンと決別しようとするフリップの決意が感じられる。
しかしこの日ズーム・クラブに足を運んだ客たちは、当然以前のクリムゾンの曲を期待していたであろうに。
ただし、この後の11月からはじまる英国ツアーでは、コンサートの最後に「21世紀のスキッツォイド・マンTwenty First Century Schizoid Man)」が演奏されていたようだ。

 それでは気がついたことと感じたことをいくつか。
「太陽と戦慄パート1Larks' Tongues in Aspic, Part One)」は、最終的なスタジオ版より、かなりハードかつヘヴィな演奏。スタジオ版のようにタイトではなく、ゴツゴツとしていて混沌とした感じだが、そこがまた生々しくて魅力的でもある。
この曲はイントロにつづいて、ヴァイオリンによるメイン・テーマ(10拍子)からヘヴィなリフ(7拍子)へという展開が2回繰り返される。この時期の初期ヴァージョンでは、2回目のメインテーマは、ヴァイオリンではなくギターで激しく弾かれていて、その分よりハードな印象が増している。

「土曜日の本(Book of Saturday)」は、ドラムレスのスタジオ版と違ってドラムが入っている。ヴァイオリンの代わりにクロスが吹くフルートが軽快で、全体にフォーキーな味わいだ。

「イージー・マネー(Easy Money)」はヴァイオリンが前面に出たバッキングで、間奏でのヴァイオリンのメジャー系の響きによって、曲の印象はスタジオ版とかなり違っている。

即興曲「Zoom」では、後の「人々の嘆き(Lament)」や「ドクター・ダイアモンド(Doctor Diamond)」といった曲の断片が聴ける。
途中でウェットンのファズ・ベース&ヴォーカル主導のブルース展開になるが、リキみ過ぎでちょっと冗長。この人がこのバンドのロック的側面を担っていたことがよくわかる。
2曲目の即興曲「Zoom Zoom」は、長い演奏で、静かな冒頭から徐々に徐々に盛り上がっていく。メンバーが一体となってメラメラと燃え上がっていくような感じがたまらない。

■ 1972年10月17日 ブレーメン、「ビート・クラブ」スタジオ・ライヴ(Live In he tudioBremen

『40周年記念ボックス』のディスク3に収録されている。内容は『コレクターズ・キング・クリムゾン』シリーズとして既発。

ドイツのTV番組「ビート・クラブ」のためのスタジオ・ライヴ。即興曲1曲と「放浪者(Exiles)」と「太陽と戦慄パート1」の3曲を演奏している。今回の『40周年記念エディション』ではDVDにこの映像版が収録されている。

即興曲のタイトル「The Rich Tapestry Of Life」は、翌年に失踪するミューアがその後にフリップに宛てたはがきに書き付けてあった言葉とのこと(『コレクターズ・…』シリーズ盤のフリップによるライナー・ノーツ)。

この映像には思わず引き込まれてしまう。
映像の主役は、ヴァイオリンを弾くクロスだ。端正な顔立ちと、多彩なヴァイオリン・プレイはたしかにテレビ的には絵になる。
しかし何といっても注目は狂人ジェイミー・ミュ-アだ。毛皮をまとい楽器の間をうろうろと動き回るミュ-アの異様な姿のインパクトは強烈。
また冷静なフリップが、怒涛のストローク・プレイのときに思わず体を浮かしてしまう没入ぶりも印象的だ。

演奏は、各人のテンションは高いが、それがうまく絡み合っていかずに全体としては混沌とした印象。しかし、そこが不思議に魅力的でもある。

ドイツでのギグを終えた新生クリムゾンは、翌月の11月からいよいよ英国国内ツアーに突入する。
長くなってしまったので、以下は次回。

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