2013年2月27日水曜日

はっぴいえんどのアルバムあれこれ

はっぴいえんどのアルバムについて、私なりにあれこれ感想、評価、思い入れなどを記してみよう。文末にはこの中から私が選んだアルバム・ベスト5も載せてあるので御参照を。


□ 『はっぴいえんど(通称ゆでめん)』(1970



□ 『風街ろまん』(1971



□ 『HAPPY END』(1973

はっぴいえんどのラスト・アルバム。でももうこれははっぴいえんどの音ではない。
トータルタイム30分。ソロ・ワークのオムニバスを水増ししたような一種の企画盤と思った方がよい。
URCを抜けてからというもの、このアルバムといい『ライブ・はっぴいえんど』といい商業主義の臭いがぷんぷんとしてくるようになって、ファンとしては悲しい。

リトル・フィートのメンバーやヴァン・ダイク・パークスなど、かなり渋い面々をサポートに迎えてのアメリカ録音。ピアノやホーンも入って、たしかにこれまでになく立体的で厚みのあるサウンドになっている。しかし肝心の曲そのものが、どれもつまらない。
細野晴臣と大瀧詠一が、もう完全にはっぴいえんどとは違う方向を向いていることはあきらか。それだけならともかく、二人の曲には自分のソロ・アルバム用にいい曲を温存してるんじゃないの…と思いたくなるような「あまりもの」感を感じてしまう。
かわりに鈴木茂の奮闘が目立つ。「氷雨月のスケッチ」はこのアルバムの中で唯一はっぴいえんど的な曲だ。だが、鈴木作の残りの曲「明日あたりはきっと春」と「さよなら通り3番地」は、曲としての出来が貧弱で魅力を感じない。

このアルバムでの松本隆の歌詞も『風街ろまん』の抽象度の高い透明感のある作風から一変して急速に「歌謡曲化」している。とても寂しい。

さよならアメリカ、さよならニッポン、さよならはっぴいえんど…。


□ 『CITY』(1,973

はっぴいえんどのオリジナル・アルバムは3枚しかない。だからこの3枚を持っていればベスト盤の必要はないはず。それでもなおこのベスト盤を買わざるを得なかったのは、「はいからはくち」の別ヴァージョンと、「かくれんぼ」のライヴ・ヴァージョンが入っていたから。

「はいからはくち」はシングル・ヴァージョンに近いアレンジだが、コーラスに小坂忠参加しているという第3のヴァージョン(現在では『CITY』ヴァージョンと呼ばれている)。
「かくれんぼ」は1971年の第3回全日本フォークジャンボリーでのライヴ音源。現在では、『はっぴいえんどBOX』が出て、このときのコンプリートな演奏が聴けるようになったが、それまではこれが貴重な音源だった。

とにかくこの「かくれんぼ」がよい。オリジナルのアルバム・ヴァージョンは2小節の短いイントロで始まるが、ここではゆったりした長いイントロで、ここからもう引き込まれる。ここで聴ける浮遊感のあるギター・ソロは、CSN&Yの「ウドゥン・シップ(木の舟)」を思わせる。大瀧の淡い揺らぎのあるデリケートなヴォーカルも素晴らしい。

どうでもいいことだけど、このアルバムは選曲にちょっと異論がある。
たとえば『ゆでめん』から「かくれんぼ」の他に、「12月の雨の日」と「春よ来い」が入っているのはよしとして、もう一曲の「飛べない空」はいらない。何だか重すぎて異質だ。
「12月の…」と「春よ…」が、松本・大瀧コンビ作だから、バランスをとるために細野作のこの曲を選んだのかもしれない。それならこの代わりに「しんしんしん」(松本・細野作)の方が断然良かったのに。

『風街ろまん』からの選曲にはほぼ異論はない。「はいからはくち」、「風をあつめて」、「抱きしめたい」、「花いちもんめ」、「夏なんです」の5曲。いずれも名曲だ。でもアルバムの中で聴くのとは、おのずと佇まいが違うことに気づいた。

ラスト・アルバム『HAPPY END』からは3曲。「氷雨月のスケッチ」はよい。しかし「風来坊」は完全に細野のソロ作の作風。はっぴいえんどのベスト盤の曲としてはかなり違和感がある。


□ 『ライブ・はっぴいえんど』(1974

1973年9月21日に文京公会堂で行われた「CITY -LAST TIME AROUND」でのライヴ。
はっぴいえんどのライヴ盤とはいっても、ココナツ・バンクと西岡恭蔵の4曲を加えた水増し的な内容。はっぴいえんどの演奏はトータルで30分未満と物足りない。
しかし、そのことよりも冒頭の「はいからはくち」とラストの「春よ来い」が、ファンク・アレンジで台無しだ。細野・キャラメル・ママ晴臣の仕業?
その他の曲も何となく気の抜けた印象。メンバーたちはみんな過去ではなく、これから進んでいく先のことに気を取られていたのだろう。こんなの聴くなら初期のライヴを聴いた方がいいよ。


□ 『SINGLES』 (1974

解散後の1974年に出たベスト・アルバム。タイトルどおり、はっぴいえんどのシングルのAB面曲に加えて、細野と大瀧のソロのシングルのAB面曲をただ並べただけのものだ。
これだけ聞くとまったく芸のない構成に思えるが、じつは73年の最後のオリジナル・アルバム『HAPPY END』なんかよりこちらの方が、よっぽどはっぴいえんどっぽい内容だ。

まず大瀧と細野それぞれのソロ曲が良い。解散前後のメンバーたちはソロ活動の方に力を注いでいたわけで、その時期に作られたオリジナル・アルバム『HAPPY END』などよりずっと曲が充実している。しかもそのソロ曲がまだ十分にはっぴいえんど色を残しているのだ(細野の「福は内鬼は外」と「無風状態」は別として)。
もしはっぴいえんどが解散することなく進化を続けていたなら『風街ろまん』のその先に、こんな展開、こんなアルバムがあり得たのではないかと思えてしまう。つまり幻のサード・アルバム。

その他「12月の雨の日」の端正な再録ヴァージョンや、「はいからはくちの」のブリティッシュ・ロック風味のシングル・ヴァージョンなども魅力的。


□ 『THE HAPPY END』(1985

1985のイベント「ALL TOGETHER NOW」の際の再結成ライヴ。イベントのワン・パートだから曲数は4曲のみ、トータル20分弱の演奏。この素材を苦肉の策の45回転LPにして、おまけをいろいろつけて無理やりアルバムに仕立て上げたアイテム。
細野・YMO・晴臣がはっぴいえんどを私物化しているテクノ・アレンジ。デリケートなリズムのニュアンスがきれいさっぱりなくなって、じつに殺風景な演奏だ。悲しい。


□ 『GREEEATEST LIVE! ON STAGE』(1986
□ 『LIVE ON STAGE』(1989

はっぴいえんどのロック・バンドとしての魅力を伝えてくれる初期のライブ音源集。それぞれ複数のステージの音源を集めている。『ゆでめん』や『風街ろまん』などのオリジナル・アルバムと同じくらい私は愛聴している。

それにしてもジャケットのアート・ワークがいかにもお粗末。いい加減で安っぽくて手抜きっぽい。それに加えて80年代も後半になって突然発売されたことや、いろいろな音源をごちゃごちゃと寄せ集めたような内容も雑な感じで何だかいかがわしい。
さらに、この2枚、タイトルが似ていて紛らわしく、しかも内容の半分が重複している。

こんなアルバムなのだが、内容は素晴らしい。スタジオの醒めた印象とはまったく異なる彼らの熱い演奏が聴ける。とくに当時まだ十代だった鈴木のギター・ワークと「文学青年」松本のドラムのアグレッシヴさが目立つ。

2004年に『はっぴいえんどBOX』が出て、当時の各ステージが完全な形で整理されてオフィシャル化された。中でも70年と71年の2回の全日本フォークジャンボリーでの名演がコンプリートで収録されたのは画期的だった。
これによって、この2枚のライヴ盤の価値もだいぶ下がってしまった。しかし、依然としてここでしか聴けない音源がある。
GREEEATEST LIVE! ON STAGE』の「加橋かつみコンサート」(1971414日)での5曲と、『LIVE ON STAGE』では「ロック・アウト・ロック・コンサート」(1971821日)の4曲(当日は6曲演奏されたらしい)がそれだ。
どちらも良い演奏で、これが聴けるだけでもこの2枚のアルバムは十分な価値がある。
このレア音源のおかげで、『GREEEATEST LIVE! ON STAGE』は、この1枚で「はいからはくち」の二つのアレンジ(シングル版とアルバム版)のそれぞれライヴ・ヴァージョンを聴き比べることができる。また『LIVE ON STAGE』では、「春らんまん」と「暗闇坂むささび変化」の珍しい別ヴァージョンを聴くことができるのだ。


<私の選ぶはっぴいえんどのアルバム・ベスト5>

第1位 『風街ろまん』(1971
第2位 『はっぴいえんど(通称ゆでめん)』(1970
第3位 『GREEEATEST LIVE! ON STAGE』(1986)+『LIVE ON STAGE』(1989
第4位 『HAPPY END』(1973、ラスト・アルバム)
第5位 『SINGLES』(1974、ベスト・アルバム)
次 点 『CITY』(1973、ベスト・アルバム)

0 件のコメント:

コメントを投稿