2013年11月2日土曜日

キング・クリムゾン『ザ・ロード・トゥ・レッド』の攻略法


ロバート・フリップが、クリムゾンのファンにまたまた爆弾を落とした。『ザ・ロード・トゥ・レッド』のことだ。みんな無事かな。私も吹き飛ばされて一時気を失ったけれど、今は何とか意識を取り戻したところだ。
『ザ・ロード・トゥ・レッド』とは、キング・クリムゾンのアルバム『レッド』の40周年記念として今回発売されたボックス・セットだ。『レッド』関連音源を集めたディスク24枚組という壮大な内容。これで値段は30000円。
今号の『レコード・コレクターズ』誌(2013年11月号)は、この発売に合わせた『レッド』特集だ。この特集で、ボックス・セットの内容の詳細を知ることができた。


<これは『USA』のコンプリート・レコーディングだ>

24枚のディスクの内CD20枚は『レッド』制作に到る1974年の北米ツアーのライヴ音源を収めたものだ。20枚のライヴ音源、しかも74年のものばかり、と聴けばクリムゾン・ファンなら、頭がクラクラするはずだ。まさに魅力的な爆弾。…まあ値段も「爆弾」だけど。
この爆発の衝撃でいったん意識を失ったわけだが、あらためてじっくりと『レコ・コレ』誌のページをめくってみる。

この20枚のCDに収められているのは、全部で16公演。いずれも1974年の北米ツアーからのものだ。ここで、ちょっと不思議に感じたのは、この年の北米ツアーの前に行われたヨーロッパ・ツアーからの音源が入っていないこと。
1974年の3月に、アルバム『暗黒の世界』をリリースしたクリムゾンは、これと同時にヨーロッパ・ツアーを開始。3月19日から4月2日にかけて13公演を行っている。
その後4月11日から5月5日までが第1期の北米ツアーで、17公演。この後少し間を置いて6月4日から7月1日までが第2期の北米ツアーで、21公演を行った。よく働く人たちだなあ。
ツアー終了後、アルバム『レッド』の制作に入り、これがこの年の11月にリリースされた。そして、これと同時にクリムゾンは解散したのだった。

このボックスに収められているのは、第1期北米ツアーからの2公演と、第2期北米ツアーからの14公演だ。文字通り「ザ・ロード・トゥ・レッド」つまり『レッド』への道、ということであれば、前作『暗黒の世界』以後、『レッド』制作までの間のライヴ音源のすべてが対象となるはずだろう。ところが、ヨーロッパ・ツアーの音源は、まったく採用されていないのだ。録音された音源が、ないわけではない。マインツやハイデルベルクやカッセル公演など<キング・クリムゾン・コレクターズ・クラブ>のシリーズに入っているものもけっこうある。
どうしてヨーロッパ・ツアーの音源は入れなかったのか。ここでひらめいた。北米公演のみということはつまり、このボックスは「ロード・トゥ・レッド」であると同時に、『USA』コンプリート・レコーディングズということなのだ。たぶん。

よし、ここでひとつ予言しよう。
新生クリムゾンの結成から『太陽と戦慄』の録音に到るまでの1972年のライヴ音源は、昨年『太陽と戦慄 ザ・コンプリート・レコーディングズ』としてボックス化された。そして今回『暗黒の世界』から『レッド』に到るまでのライヴ音源の内、後半の北米ツアーの音源が『ザ・ロード・トゥ・レッド』としてボックス化されたわけだ。
となると残るは1973年の『太陽と戦慄』以降、『暗黒の世界』をはさんで、その後の1974年初めのヨーロッパ・ツアーまでのライヴ音源だ。これがやがてボックス化されるに違いない。タイトルは、もちろん『暗黒の世界 ザ・コンプリート・レコーディングズ』。
『暗黒の世界』は、実質的にこの時期のライヴ音源集だから、この前後のライヴ音源の集成は大いに意義があるはずだ。ただしこの間の彼らの公演数は相当な数にのぼる。したがって、このボックスは、かつてない巨大なものになるだろう。以上が私の予言。


<箱がファンに求めていること>

今号の『レコード・コレクターズ』誌の『レッド』特集のボックス紹介記事(「『レッド40thアニバーサリー・ボックス』徹底解説」)で、筆者の坂本理は、ライヴ音源を収録したCDについて、次のように語っている。
「何よりこの20枚を聴き切ること。これこそ、このボックス・セットの求めていることであり、それによって鮮明に浮かび上がってくるキング・クリムゾンの真の姿を読み取ることにこそ意味がある。」
坂本はさらに次のようにこの文章をしめくくっている。
「時系列で日々の演奏を音と日記で辿るということは、キング・クリムゾンをまるごと追体験することだ。(中略)…バンドが急速に成長し、途轍もない高みに登り詰めていった時間をつぶさに検証する。(中略)ファンにとってこれ以上の至福はない。」

何ともストイックな態度である。まるで修行のような言い方だ。まさに求道的なクリムゾン・ファンの姿がここにある。私だっていっぱしのクリムゾン・ファンのつもりだから、やはりそんな「至福」を味わいたい。
しかし、この「求道」を極めるためには、この3万円のボックスを買う必要がある。ストイックであるためには、まずお金が必要なのか。
何とか買わないで済む方法はないものか…。


<箱の攻略法>

あらかじめお断りしておくが、この文章はこのボックス・セットのカスタマー・レヴューではない。このボックスを買った人のレヴューを期待している人は、どうかよそでご覧下さい。

『ザ・ロード・トゥ・レッド』に収録されている16公演のデータを見てみた。するとこれまで未発表だった音源が意外に少ないことに気づいた。初公開音源は4公演のみ。ヒューストン(6月5日)、エル・パソ(6月8日)、デンヴァー(6月16日)、グランド・ラピッズ(6月23日)の4公演だ。
これらの公演は、内容をちょっと見ただけで、なるほどこれまで未発表だった理由が何となくわかる。曲の一部が欠落していたりして、いわゆる「キズモノ」というか「ワケあり」の音源なのだ。
たとえばエル・パソ公演では「スターレス」の真ん中部分が欠落していて、曲の初めと終わりだけの収録。さらにデンヴァー公演にいたっては、「トーキング・ドラム」の途中に会場の電源トラブルのせいで録音はぶっつり中断、そのままコンサートも中止になっているのだ。このあとに「太陽と戦慄パートⅡ」が来るはずだったのにね。

この4公演以外の12公演については、その音源がすでに世に出ているということになる。『レコ・コレ』誌の特集の「1974年の全公演スケジュール」の表を見ると、残る12公演のうち11公演の音源については、DGMのホーム・ページからダウンロードで購入可能とのこと。どういうわけか配信されていないトロント公演は、DGMの通信販売アイテム<キング・クリムゾン・コレクターズ・クラブ>シリーズの1枚として入手可能だ。

それらを入手していれば、今回のボックスのライヴ音源については、四分の三はカヴァーできることになる。これくらい聴ければ十分のような気もするが…。
しかしじつは私はダウンロードも海外通販もやらない(本当は出来ない)人なのである。何しろ今時珍しい旧式人類なもので…。
そこでさらに入手が容易な国内盤で、どこまでこのボックスの内容に迫れるか調べてみたのだ。

74年のライヴ音源と言えば、まず4枚組のボックス『ザ・グレート・ディシーヴァー』だ。そして、DGMの通販アイテム<キング・クリムゾン・コレクターズ・クラブ>の日本版である<コレクターズ・キング・クリムゾン>シリーズの内にも何枚かある。
これらで聴くことができる『ザ・ロード・トゥ・レッド』収録音源は以下のとおり。

・4月29日 ピッツバーグ公演(今回のボックスのディスク2、3に収録)
全15曲の内の11曲を『ザ・グレート・ディシーヴァー』のCD3で聴くことができる。

・6月24日 トロント公演(ディスク11、12)
全11曲の内の4曲を、『ザ・グレート・ディシーヴァー』のCD4で聴ける。
この公演の音源は<キング・クリムゾン・コレクターズ・クラブ>からも出ているが、日本盤にはなっていないようだ。

・6月28日 アズベリー・パーク公演(ディスク15、16)
<コレクターズ・キング・クリムゾン>シリーズとして日本盤が発売されている。

・6月29日 ペン州立大学公演(ディスク17)
9曲の内の3曲(演奏時間にするとコンサートの半分にあたる)を、『ザ・グレート・ディシーヴァー』のCD2と3で聴ける。

・6月30日 プロヴィデンス公演(ディスク18、19)
全10曲が『ザ・グレート・ディシーヴァー』のCD1と2にコンプリート収録されている。

・7月1日 ニューヨーク、セントラル・パーク公演(ディスク20)
<コレクターズ・キング・クリムゾン>シリーズとして日本盤が発売されている。

以上のとおり日本盤アイテムで一応ボックスの16公演の内、6公演の音は聴くことができる。コンプリート収録でないものもあるが、ざっと見てボックスの三分の一くらいがこれでカヴァーできるのではないだろうか。
三分の一ではあるが、これらの音源の中に、このツアーのハイライト、坂本理が言うところのこのバンドが「途轍もない高み」に登り詰めた瞬間が含まれている。その瞬間とは、6月28日のアズベリー・パーク、6月30日のプロヴィデンス、そしてツアー最終日7月1日のニューヨーク、セントラル・パーク公演だ。これらを、いずれもコンプリートで聴くことができる。
ちなみにこの間に挟まれた6月29日のペン州立大学公演は、3曲のみしか聴けないが、この日は日記によるとフリップが体調をひどく崩していたとのことなので、一部しか聴けなくてもあきらめがつく。

というわけでこれらの手持ちの音源に、あらためてじっくりと耳を傾けてみようと思う。
これだけでは、坂本のようにクリムゾンの急速な成長を検証し「まるごと追体験すること」はできないかもしれない。しかし坂本の言う「キング・クリムゾンの真の姿を読み取ること」は、不可能ではないと思っている。「ファンとしての至福」のかけらを手に入れられんことを…

各コンサートについての感想は、また別項で書く予定。

0 件のコメント:

コメントを投稿